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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3557号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで、増額請求時における適正賃料額について検討する。

1 これについては、いずれも成立に争いのない甲第一五号証(以下「佐野鑑定」という。)、乙第一号証(以下「奥村鑑定」という。)の各鑑定意見があり、ともに、各種の算定方式を試み、これを総合して適正増額賃料を求める方法をとつており、その方法はいずれも基本的には合理的なものと解されるので、両者を比較検討した結果、次の各方式により、両鑑定の数値を一部修正して得られる数額を基準として、適正賃料額を定めるのが相当であると判断する(奥村鑑定の内では昭和五七年一月一日価格時点の評価を佐野鑑定の評価と対照する。なお、両者の価格時点の差は一か月なので、とくに考慮する必要はない。)。

(一) スライド方式(奥村鑑定ではスライド方式のその一) これは、本件賃貸借契約締結時の賃料の内公租公課相当額を差引いた純賃料にその後の消費者物価指数を乗じて得た額に価格時点の公租公課の額を加算するもので、両鑑定の間では端数処理を除いて差がなく、この方法による賃料額は月額六万四八〇〇円である。

(二) 倍率方式 これは、公租公課の額に一定倍率を乗じて適正賃料を求めるもので、両鑑定もこれを採用しているが、その用いる倍率が佐野鑑定では2.1倍とするのに対し、奥村鑑定は1.85倍とする点が異なる。後者は、昭和四九年度の標準地代が公租公課額の2.5倍であることを前提として、本件土地における公租公課について途中で取扱いが変つているので、固定資産税評価額の変動によつて右倍率を調整すべきであるとするのであるが、右のような調整を施すことに十分な合理性があると認めるには足りない。そして、佐野鑑定によれば、本件土地の近隣地域を含む江戸通りでの一般の事業所用地では賃料は公租公課の二ないし2.3倍であるというのであるから、本件土地に適用する倍率として二倍を採用するならば、この方式による賃料額は、昭和五六年度公租公課額三九万二七九一円の二倍の年額七八万五五八二円、月額六万五四六五円となる。

(三) 差額配分方式 これは、土地の底地価格に期待利回りを乗じて得られる純賃料と従前の合意賃料中の純賃料との差額を一定割合で貸主と借主とに分配するものである。これについての両鑑定の差異は、基礎となる更地価格の若干の差(一平方メートル当り約六万円)と、計算過程における公租公課の取扱いの相違のほか、主として、底地割合の評価の相違(佐野鑑定二〇パーセント、奥村鑑定一四パーセント)によつて生じているものであるが、底地割合を一四パーセントとするのは、社会通念上、土地評価額のきわめて高額な一等地を除いては、少しく低きに失する嫌いがあると考えられるので、これを一六パーセントとして佐野鑑定の計算方式により算定すると、賃料額は月額六万七九八五円となる。

(四) 利回り方式 これは、底地価格に期待利回りを乗じて得られる純賃料に公租公課を加えるもので、奥村鑑定は、底地割合を二割、利回りを年1.5パーセントとして算定する。佐野鑑定はこの方式を考慮していないが、これも一つの算定方式として斟酌するに値いするというべきであり、ただ、奥村鑑定の右利回りはやや低きにすぎると考えられるので、これを年二パーセントとし、他は同鑑定の方式に従うと、得られる賃料額は月額六万六三三八円となる。

2 右1に掲げた四方式のほか、両鑑定とも比準方式についても検討を加えており、この点では、一事例のみに比準する佐野鑑定(月額六万七五〇〇円)よりも、三事例を対照した奥村鑑定(月額五万二九三〇円)の方に客観性があるように見られないではない。しかし、この方式は、対照事例の賃貸借の個別的事情に左右されるおそれがあり、また、比準に用いた補正要因の数値の正否をも確認しがたいから、とくに明らかに類似する事例が存しない以上、この方式による数値は単なる参考にとどめるべきである。そのほか、奥村鑑定は、地価公示価格を基礎とする日税方式による月額五万八六四六円、路線価に基づく法人税方式による月額五万六五八六円の各数値をも基準としているが、これらは、その方式及び算定の目的からして、土地の実際の価値を反映しうるか否かについては疑問の余地があるので、参考にとどめることとする。

3 ところで、賃料の増額請求は、公租公課の増加、土地価格の上昇を理由として認められるのであるから、公租公課の増加分を賃借人の負担とするばかりでなく、土地価格の上昇を然るべき範囲で賃貸人の収益に反映させることが合理的である(前記1の四方式はその目的に適うものである。)。しかるに、奥村鑑定の結論とする賃料月額五万八九七九円から昭和五六年度公租公課の額を差引いて得られる純賃料は月額二万六二四七円であつて、昭和五三年四月当時の約定賃料から同年度の公租公課額を控除した純賃料の額二万七〇六六円をかえつて下廻ることになり、同鑑定も言及しているその間の土地価格の上昇(年間上昇率平均一〇パーセント)が全く反映されていないことになるので、この一事をもつてしても、右鑑定意見は低額に過ぎることが明らかである。また、成立に争いのない甲第一〇及び第一一号証各記載の算定方法も、公租公課の増額分のみを被告が負担することとするもので、同様に失当である。なお、被告の主張する更新料、借地条件変更承諾料の支払は一般的なもので、支払賃料にとくに影響を与える金額ではない旨の佐野鑑定の意見も首肯することができる。

4 そこで、前記1の(一)ないし(四)の各数値を総合し、2に言及した点をも参考にして考察すると、本件土地の昭和五六年一二月一日時点の適正賃料は月額六万五〇二九円(一平方メートル当り一二九〇円)であると認めるのが相当である。各鑑定中これと異なる部分は採用せず、他にこの判断を左右すべき資料はない。 (野田宏)

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